イン・ア・マイナー・グルーブ/ドロシー・アシュビー IN A MINOR GROOVE / DOROTHY ASHBY AND FRANK WESS 1958年録音(MONO) PRESTIGE DOROTHY ASHBY,harp FRANK WESS,flute HERMAN WRIGHT,bass ROY HAYNES,drums |
アフロディーテの祈り/中本マリ APHRODITE / MARI NAKAMOTO 1979年録音 ZEN 中本マリ,vocal 三木敏悟,produce NORMAN SCHWARTZ,produce |
カモン・カモン/シェリル・クロウ c'mon,c'mon / SHERYL CROW 2002年リリース A&M |
モーツアルトだってマイルスだって、その時代で「一番かっこいい音楽を作ってやろう」と思っていたに違いない。なんだかんだ言ったって、音楽はかっこよくなくっちゃ始まらない。
シェリル・クロウは、今のシーンで最高にかっこいいロックを演っているミュージシャンだ。このアルバムでも、頭のてっぺんから足の爪先まで完璧に磨き上げたスーパーモデルみたいなロックをきくことができる。
ソングス・フォー・ザ・ギター/ クリスティナ・ヘグマン、ヤコブ・リンドベリ Songs for the guitar / Christina Hogman,Jakob Lindberg 1985年録音 BIS CD-293 Christina Hogman,soprano Jakob Lindberg,guitar |
1990年12月9日、僕は雑誌の企画で長岡鉄男さんの方舟に伺わせていただいた。これは素晴らしい経験だったのだけど、その鮮烈な音に、「とてもじゃないが、何か大事なものを捨てない限り、僕にはこのレベルにたどり着くことはできない」と思った。結局、それから10年間、僕はオーディオから少し距離を置くことになる。
そのときにきかせていただいたソフトの1枚がクラシックギターとソプラノ独唱のCDで、その信じられないくらい美しい声とギターの音に目を見張った。今、長岡鉄男さんというと、自衛隊の実射演習録音など音楽以外のことが語られがちだけど、そこでは間違いなく、素晴らしい音楽がつむぎ出されていた。
でも残念なことに、緊張していた僕はソフトの題名を長岡さんに聞くことができなかった。長岡さんが亡くなられた今となっては、それはもう確かめようもない。だから僕は今、誰かにきかせてもらったソフトをいいと思ったら、ちょっと恥ずかしくても必ずメモを取らせてもらうようにしている。偶然の出会いに2回目なんてものはないのだ。たとえ相手がCDであってもね。
このCDは、方舟訪問後ほどなく購入したものだけど、同じものであるかどうかはわからない。でも、この演奏と録音だったら、もしあの時の方舟で鳴らすことができたなら、同じように感動させてくれるに違いない。そしていつか僕の部屋で、あの高みの片鱗でも表現することができたならと、今の僕は思っている。
ポール・サイモン・ソング・ブック/ポール・サイモン The Paul Simon Song Book / Paul Simon 1964年録音(MONO) CBS SONY SONX 60054 |
高校で同じクラブだったノリタケくんは、顔がちょっとポール・サイモンに似ていて、僕以上にサイモン&ガーファンクルのファンで、このLPもちゃんと持っていた。僕は彼から借りたLPをカセットに録音してきいていたから、自分で買うのはついつい後回しになっていて、そうこうするうちにどのレコード店でもこのLPを見かけなくなってしまった。暫くしてその理由が、ポール・サイモン本人の意向で廃盤になったためであることを知って、であればもう発売されることはないだろうから、早く手に入れておけば良かったとずいぶん悔やんだ。それから20年くらい経つけれど、当然のことながらCD化されることもなく、今に至っている。
カセットはずいぶん前から行方不明だし、ノリタケくんも大学を卒業してから行方が知れないし、もう二度ときけないのかとあきらめかけていたら、インターネットのおかげで手に入れることができて、今日届いた。すごくうれしい。
僕が知っている盤は、ポール・サイモンと女の子が川辺で人形遊びをしているジャケットだったけど、これは本人のポートレート。中身は同じものだ。
このアルバムはサウンド・オブ・サイレンスがヒットする前、イギリスに渡ったポール・サイモンが録音したもので、ほとんどギター1本と唄だけの演奏。サイモン&ガーファンクル名義のアルバムにも収録されている曲が多いけれど、こちらの演奏はシンプルでストレートで怒りに満ちていて、ひどく孤独だ。それはまるで、僕らが以前経験したもの、誰もがかつて経験した「何か」を、そのまま切り取ったかのようで、だからこそポール・サイモンはこのアルバムを回収したのかも知れない。
2002.11.19
補記:2004年春、ノリタケくんと再会を果たした。これはオーディオをやっていたおかげだ。とてもうれしい。そして同じ頃、このアルバムのCDが発売された。
スリーピング・ジプシー/マイケル・フランクス sleeping gypsy / Michael Franks 1977年リリース Warner |
大学のジャズ研の先輩、ギターのHさんは掟破りの16ビートが大好きで、ごきげんな4ビートをやれる腕を持ちながら、「オレは16(ビート)をやりたいから」と言って、レギュラーにならなかった。ステージでは自分のオリジナルの間に1曲だけマイケル・フランクスを混ぜるのが好きで、終演後に「3曲目はマイケル・フランクスでしたね」とか言うと、「ばれた? くそーっ」と悔しがってくれた。
マイケル・フランクスを初めてきいたのは、高校1年の夏だったと思う。FMから流れてきた「アントニオの歌」に文字通りノックアウトされた僕は、すぐにレコードを買いに家を出た。
マイケル・ブレッカーも、デビッド・サンボーンも、ラリー・カールトンも、初めてその名前を意識してきいたのがこのアルバムだ。それから3年後にジャズ研に入ったのも、全ての始まりはこれ。
だから、僕の中にはこのアルバムの理想の鳴り方というのができあがっていて、レコードをききながら、装置に向かって「そこがちがーう!」などと、独りでつっこみを入れてしまう。
2003.03.21
ハウズ・エヴリシング/渡辺貞夫 HOW'S EVERYTHING / SADAO WATANABE 1980年録音 渡辺貞夫,as,sn,fl デイブ・グルーシン,key エリック・ゲイル,g リチャード・ティー,p スティーブ・ガッド,ds アンソニー・ジャクソン,b ラルフ・マクドナルド,per 他 |
1980年7月、武道館で行われた渡辺貞夫のコンサートは100人規模のオーケストラを従え、スティーブ・ガッド、アンソニー・ジャクソン、リチャード・ティー、エリック・ゲイルなど最高のメンバーを起用したものだった。このライブは2枚組のLPでアメリカのCBSから発売されたし、今でもCDできくことができる。
僕は、当時FMでやっていた「渡辺貞夫マイ・ディア・ライフ」という番組のプレゼントに申し込んでチケットを手に入れ、友人と2人でききに行った。アフリカン・フレーバーの匂い立つその音楽はエキゾチックでホットで、むせかえるように暑い夏の夜の香りと溶けあい、きくものに魔法をかけた。
この後、9月にはメンバーを多少入れ替えつつロサンゼルスのロキシー、ニューヨークのボトムラインでライブが行われ、その模様は日本でもFMで放送されている。ロキシーではリー・リトナーが参加し、彼が入るとバンドの音がすいぶん変わっちゃうんだけど、それでも全盛期だったリトナーのプレイは凄まじい。「NO
PROBLEM」でのソロなどはもう圧巻で、一生懸命コピーしたものです。あんなの、もう弾けないけど。
2003.08.17
モントルーII/ビル・エヴァンス Montreux II / Bill Evans 1970年6月録音 CTI 6004 BILL EVANS,piano EDDIE GOMEZ,bass MARTY MORRELL,drums |
1970年6月、モントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブ。ベースはエディ・ゴメス、ドラムスがマーティ・モレル。
この2年前、68年に同じ場所で演奏したアルバム「モントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス」が有名だが、僕はこの「II」が好きだ。ビル・エヴァンスの刹那的な疾走感。ゴメスがときに伴走、ときに追走し、モレルが不思議な不安定感を醸し出す。あと何かひとつでも力を加えたら崩れ落ちてしまいそうな、切迫した美しさ。これに比べると68年の演奏は、ドラムスが名手ジャック・ディジョネットということもあり安定しているけれど、やりたいのはそういうことではないのではないか、という気分が抜けない。
録音はスイス・ロマンド放送局。Rerecording by Rudy Van Gelder のクレジットと、盤面の刻印から、CTIレコードがヴァン・ゲルダーにカッティングを含め音作りを依頼したことがわかる。放送局による録音はそれほどよいものではなかったようで、苦労が偲ばれる音だが、オールRVGの作品とは違った独自の魅力ある仕上がりになっている。
2005.04.02